昨年の7月、奈良県生駒郡安堵町に在る重要文化財中家住宅の大和棟の主屋が、火災の延焼で焼け落ちてしまいました。火元は隣家の焚き火から延焼との事でした。このニュースを見た時は大変驚きました。火災時の映像を見ていると言葉もなく、深い喪失感に襲われました。中様には何度かお世話になったこともあり、代々守り継がれている建物をとても愛し大切にされている話もお聞きしておりました。中様がどれほど悔しい思いをされお悲しみのことかと思うと、胸が締め付けられる思いがしました。
火災後の調査で、重要文化財としての価値は残存していることが判明し、修復をされることになったとの事です。国の重要文化財ですので国や県、町の補助は受けられますが、総額5〜7億で個人負担も3000万円以上になるそうです。文化財と言えど、修復の規模が大きいと個人の負担もかなり大きくなってしまいます。
この度クラウドファンディングを立ち上げられました。READYFOR
中家住宅は大変価値のある美しい建物です。中家住宅のファンのひとりとして、一人でも多くの方にご協力頂ければと思います。どうぞ宜しくお願い致します。
火災後の中家住宅主屋

火重要文化財中家住宅 延焼から14時間 youtube動画期間限定

中家住宅について
2018年2月に中家に伺った時のブログより、一部紹介させて頂きます。
中家は3500坪もの敷地をもつ環濠屋敷で、内濠と外濠の2重の濠に囲まれています。
濠に掛かる橋は跳ね上げ橋で、万が一の時には中央の板をすべらせて外し、敵の進入を防いだそうです。

ぐるりと濠に囲まれています。

表門をくぐると、大和棟の主屋が見えてきます。

大変美しい建物で、10年前に初めて見学させてもらった時は、圧倒されました。
江戸時代初期(1659年)に創建された当時は茅葺屋根だったそうで、1700年代半ばに大和棟に改修されたそうです。大和棟の建物は、同様に茅葺から大和棟に改修しているところも結構あるようです。

美しい民家として切手のデザインにもなりました。(日本の民家シリーズ第2集)
右手には新座敷へ通じる門があります。新座敷は1773年に建てられ創建以降1度の改修もなく、現在も当時のままの形で残っています。江戸時代には天領地を中家が納めていたため数年に一度検地のために役人が訪れたそうで、役人をもてなすために建てられたのが新座敷だそうです。大変立派な座敷と小間の茶室があります。

主屋の扉を入ると間口の広い通り庭の土間があり、左手には11の焚口をもつ竈があります。これほど多くの焚口を持つ竈は日本でも最大級だそうです。現在改修中で中塗り仕上げですが、最終的には黒漆喰でつやつやに磨かれた仕上げになります。

煙返しの松丸太。すごいですね。構造材は全て太く、圧倒的です。

竈は小、中、大、特大、いろいろなサイズがあります。これほど多くの焚口があるということは、多くの使用人がおられたことでしょう。

勾玉型に湾曲しており、火の番をし易くなっています。
中塗り後1年半たつそうですが、まだ完全には乾いていないそうで、漆喰の上塗りはもう少し先になるそうです。

主屋は整形4間取りで、この室は座敷です。主障子の向こうに濠と竹やぶが見えます。


障子の外の濠には入船があります。役人が来た時には舟遊びで観月会(水面に映る月を見る)をしたそうです。優雅なおもてなしの場です。右の高床の建物が新座敷です。

新座敷入り口。入口は主屋から橋を渡る端整なつくりです。階段を3段ほど上がった正面には小間の茶室があります。

奥の敷は大変立派な普請です。創建時より現在まで来客時のみ使用されていたそうで保存状態がよく、江戸中期そのままの姿ということです。
床の間には季節を感じる梅の2幅対のお軸が飾られていました。飾られるものは季節でいろいろなものを選んでいらっしゃるとのことでした。床脇は畳敷きです。棚下屏風が飾られることもあったことでしょう。

欄間の彫り物は、雲のかかる月と波に跳ねるうさぎです。とても優雅ですね。

うさぎのかたちが躍動感にあふれています。

釘隠しは菊花。元は丸い菊花のみだったそうですが、明治になった時に天皇家と同じということで畏れ多いため、花の下に葉をあしらわれたそうです。菊花の部分は江戸時代のものをそのまま残しているそうで、そのような方法もあることを知りました。

襖絵も屏風も大変立派です。江戸時代のままよく保存されていらっしゃることと思います。

こちらは主屋から繋がる離れの水廻りです。
左側に館型の蒸し風呂があります。

検地に来られた役人を、蒸し風呂でおもてなしされたそうです。江戸時代のお風呂はいろいろな形がありますが、民家でこの館型の蒸し風呂が残っているところは珍しいそうです。火は薪ではなく炭を使ったそうで(煙が出ないように)、鉄瓶の湯をゆっくりと温めて蒸気にして内部に籠らせたそうです。内部の床のスノコの上に布を敷いて入ったそうで、この布が風呂敷の始まりだそうです。蒸し風呂は浴衣を着て入るそうで、外に出て外のスノコの上でお付きの女性の人に汗を拭いたり流したりしてもらったそうです。

こちらは御不浄、トイレです。
子どもの頃、このようなトイレに入った経験はあります。木の蓋の真ん中に持ち手があり、下に落ちないようにひもでどこかに繋がっていました。

私の母親が若い頃、お寺の友達の家に行くと御不浄の床が板ではなく畳敷きで、とても気を使いながら使わせてもらったという話をきいたことがあります。古い建物を見学する機会がありますが、畳敷きの御不浄は今はまだ見たことがありません。
これは殿方用の小便器。木製です。端は雲形のような意匠がされていますね。ゆかは竹のスノコです。

奥の庭から見たところ。

庭の奥の内濠。

中家の敷地の中には持仏堂があり、隣の庫裏にはお坊さんが住んでいたそうです。敷地の中に自分の家のお寺があるとは凄いことですね。中家から仏門に入られる方もおられたそうです。
2年前に庫裏の屋根を改修された時の写真を見せていただきました。ドローンで空撮されたお写真です。葺きたての茅葺が綺麗ですね。箱棟もかっこよい。

工事中の骨組み状態。中は土葺きですね。瓦ぶきの箱棟の下地はこのような形で作られています。

葺き上がり。こちらも素晴らしく美しいですね。

中家住宅は大和棟の主屋、新座敷の他、この持仏堂、庫裏、表門、米蔵、新蔵、乾蔵、米蔵、牛小屋、そして、宅地、濠、竹藪が国指定の重要文化財になっています。
見学には予約が必要ですが、公開されています。

重要文化財に住まわれるご当主の中様より、この建物を中心とした人生についての話をお聞きし、大変感慨深く思いました。重文ゆえの不自由さもお有りのことと思います。人が住まなくなり手放されたり移築される民家が多い中、現在もお住まいですので建物の状態もよく、中家住宅は「生きている民家」です。
民家を移築した民家園などでも建築を楽しむことができますが、住まわれている民家とはおおよそ異なります。どなたかが展示されている民家のことを「剥製」に例えておられました。確かに、使われている建物とは違う寂しさや虚しさを感じます。建物に命があるとするならば、人に使われてこそ生きているように思います。