春日大社の一の鳥居の手前に老舗料亭菊水楼があります。大変立派で目立つ建物ですので、奈良の方だけでなく観光に来られた方も含めて多くの方がご存じの建物だと思います。この菊水楼は元々料理旅館でしたが、現在は料亭として営業されています。このたび、菊水楼見学ツアーに参加しました。

菊水楼の旧本館(木造2階建)は明治24年に建てられ、その10年後の明治34年に本館(木造3階建)が増築されました。入口の表門と庭門は、圓成寺塔頭の門を明治期に現在地に移築したと伝えられているとのこと。圓成寺での建築時期は江戸期の建物で、どちらも薬医門形式です。

特に表門は本瓦葺きの風格のある門ですので、歴史ある料理旅館の表構えとしてふさわしい格式が感じられます。
本館、旧本館、表門、庭門は国の登録文化財に指定されています。

入口の天井には豪華な菊水の彫り文様が見られます。

本館2階の待合い。廊下側との仕切り壁は半月型にくりぬかれており大変優美な空間です。

壁止めには竹が使われています。この建物には多くのアーチ形状や丸型がデザインとして取り入れられており、素材としても竹が随所に使われています。

最初にお茶を頂きました。こちらも壁を縦の半月型にくり抜いてあります。窓ガラスは下の方が摺りガラスで上部は透明ガラス。景色の見え方を工夫されてのことでしょう。

縁側。障子は上下が壁内に納まる引き込み障子になっており、縁側から見てもくり抜きの造形が分かるように作られています。かなりの薄壁です。

廊下の途中の窓の意匠も素晴らしく、ちょっとしたところで華やかな印象を受けです。

階段の手すりは菊水文様の透かし掘りが施されており、こちらも大変優美です。

20数畳ある座敷。床の間も床脇も大変立派です。

床柱は再利用材です。この建物が建った明治中期は廃仏毀釈で取り壊されるお寺が多かったようで、様々な材をお寺から譲り受けて使われたとのことでした。この床柱もそのひとつだと思いますが、大きな貫穴が開いているので、大きな建物の柱として使われていた材だと思います。金の釘かくしは房付き。それにしても大胆な使われ方と木の持つ風格に圧倒されます。

こちらの床柱もお寺から譲り受けられたものだそうです。柱脚まで装飾金具が施されており、柱頭には斗が見られます。このような納まりは初めて見ましたが違和感なく納まっています。

大胆にも途中でぷっつりと切られた太い床柱。このような床柱は見たことがありません。
床脇には垂れ壁がなく竹節欄間の束に幕板が付いたような意匠です。琵琶床のような台もR型です。床柱、欄間とRの琵琶床が合わさり不思議と自然に納まっています。

こちらの窓も半月型に壁がくり抜いてあります。

壁止めはいずれも竹で八掛でチリ際まで壁が塗られています。アーチ状の納まりを八掛で納めるとは、大変優美で軽快な仕上がりです。ただただ素晴らしい。
引手もいろいろなものが使われています。

櫂形引手。

こちらは傘型。この部屋はこの引手から「傘の間」と名前がついているそうです。

旧本館は畳の床をカーペット敷にしているところが多かったです。この部屋は披露宴をされるときの花嫁さんの控室として使われているとのことで、大きな姿見が置かれていました。

こちらも旧本館の元宿泊室。床は段通が敷かれています。床柱も大きな出節やこぶ付き合いのものが途中で切られており、後ろに襖の戸当たりになる縦枠が入っています。
本館も一時カーペットや段通敷きにされていたそうですが、改装時に当初の畳敷きに戻されたとのことでした。

大広間。この部屋は最上階ですがかなりスパンが飛んだ大空間です。数年前に3か月休業をして建物全体の耐震補強もされたとのことでした。

正面には舞台があります。往時は奈良町の芸子さんが来てここで舞を披露されていたそうです。この階は元々男性用のトイレしかなかったそうで、この大広間は紳士の社交場だったそうです。現在は女性用トイレを設置されています。

南の窓からは荒池の向こうに奈良ホテルを見ることが出来ます。奈良ホテルが出来たのは明治42年なので、奈良ホテルが建つ前から奈良の名旅館として使われていたことと思います。奈良ホテルとはまた違った趣で、古都にふさわしい風情で最上級の空間を味わえる建物です。
今回のツアーでは若女将が館内を案内くださり、菊水楼の歴史や考え方についてもお話頂きました。春日大社や東大寺に囲まれ古の歴史を感じる土地柄の中では菊水楼はまだまだ若く、その中で美味しいお料理を提供することが菊水楼の役割と考えているとのことでした。菊水楼はお料理の美味しさが有名で、菊水楼出身の板前さんも出身であることを誇りとされているとのことです。
今回も見学のあとお食事を頂きました。以前にも一度伺ったことがありますが、食事だけだと建物内全体は見ることが出来ないので今回の見学は大変有り難かったです。
新たに作られた明日棚にも手紙を収めさせて頂きました。再びお伺いしたく思います。

今回参加したツアーはotonami 奈良「菊水楼」
10月から始まった企画とのことですが、しっかり堪能させて頂きました。
