奈良町で改修工事をさせていただいた西村邸。道路側の外部工事(外観)は歴史的風致形成建造物整備事業における修理助成事業に申請をして工事を行い、歴史的風致形成建造物の指定を受けることになりました。
修理の基準は、歴史的な建造物の外観の維持保存を目的としており、現状の仕様と形状を変更しない修理、又は痕跡に基づき元の姿に復原する修理です。
西村邸は大正4年に築造されたのちも大がかりな改造はされておらず、整った伝統意匠の残る建物でした。主屋東側の落ち棟部分は元々は藏であったであろうと思われますが、そのあと住居として使われ、その後に車庫に改造され電動シャッターを設置されていました。
改修工事をするにあたり、車庫は無くして伝統的な意匠に戻すことをご希望いただきました。部分解体をして調査をしたところ、両側の柱に格子貫の痕跡や大きな框や鴨居の痕跡が見つかり、また、格子は出格子ではないことも判明しました。貫のサイズから太格子が入っていたと考えられ、貫サイズに合わせた縦格子で設計しました。格子の入っていた柱はシャッターのついているところよりも40㎝程手前の柱でしたので、元はその位置が外部との境界という事が分かりました。改修後は元の壁位置に戻し、縁(軒下)が復活しました。外部の木部は歴史的建造物修理事業で古色塗装が指定されており、外部用柿渋で色を調色し塗装していただきました。
落ち棟の方の下屋の屋根下地が傷んでおり軒先が垂れ下がっていたので、下地からやり直して瓦も葺き直しました。壁との取り合いの熨斗は松皮菱が使われており、これは元のものをそのまま使って頂きました。
また、主屋の袖うだつは健全な状態でしたが、落ち棟の袖うだつは片方が無くなっており、もう片方も簡易な補修がされておりましたので整えることになりました。
改修前

改修後

外壁の黒漆喰も塗り直していただいております。西村邸は元々が黒漆喰塗でしたので同じように黒漆喰塗で仕上げていただきました。
黒漆喰は漆喰に炭を混ぜ練って材料を作るところからとても手間のかかる仕事で、塗る難度も非常に高いそうです。
主屋2階にはルームエアコンの室外機が設置されていました。こちらは撤去して格子を復原しました。雨どいは塩ビ製のものから銅製のもに取り替えています。
主屋の縁(軒下)には、鹿除けと呼ばれている名栗格子が入っていました。この格子は奈良町の町家で時々見かけられるものです。
栗材は水に強い材ですが、長年風雨にさらされていたため材の端々が傷んでおりましたので新調することになりました。再び名栗の同寸の材で鹿除けを作っていただきました。解体した鹿除けの名栗のなかで、傷みのない部分を使ってお茶室の濡れ縁を作っていただきました。古い民家や町家を改修していると、貫穴や仕口の跡のある再利用材が使われているのを頻繁に目にします。この濡れ縁に使った名栗材にも貫穴が通っており、見えないような方向にして使っています。何十年後かの改修時には、再利用材を使用したことが発見されることでしょう。
改修前

改修後

奈良市の歴史的風致形成建造物の外観修理に関する助成は平成27年より毎年実施されています。
歴史的な町家や民家にお住まいの方や、この地域で町家や民家を改修してお住まいになられたい方はご利用になられると良いと思います。
対象範囲

奈良市ホームページ
修理に関してはいろいろと細かな基準がありますが、目的とされる項目は次のように分類されています。

西村邸は、主屋・落ち棟・茶室棟・渡り廊下棟が指定されますが、茶室棟は「茶の文化に見る歴史的風致」というのが該当していることでしょう。
西村邸の茶室は大変風流なつくりです。是非一度訪れてみてください。
改修設計の仕事をさせていただく中でいつも感じることは、ひとに愛される建物は長く残るということです。
この西村邸も建物が建ってから100年の間、その時代に合わせて改修をされながら大切に住み継がれてきたことがよく分かります。
設計前・設計中はその建物の良さや残すべきところを見極めて設計を進めますが、工事が始まって解体をしていくと骨組みや下地が見えてきて、今度は建築当初の作り手の意気込みのようなものを感じます。そしてこう敷き期間中に長い時間を現場で過ごすといろいろな気づきがあり、その建物の意志のようなものを感じるようになります。建物の声に耳を傾けながら、改修後も住まい手さんや町の方にも愛される建物にしたいという思いです。